遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第16回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

渡邊美樹(日本女子大学大学院博士課程前期二年)

「燕雲十六州の軍事的機能と遼宋対立」

 これまで、契丹による燕雲十六州の獲得は、遊牧民政権による漢人居住地・農耕世界の獲得という牧農の対比の中で捉えられてきた。したがって、契丹がこの地を獲得した意義も、専ら漢人の持つ政治スキルや文化、あるいは農耕世界がもたらす経済利益などに注目して論じられる傾向にあった。

 しかし近年、隣接する唐末五代の中原側の視点に立つ研究からは、注目すべき見解が提示されている。すなわち、唐末五代の中原諸軍閥・諸政権は、燕雲十六州とりわけ太行山脈以西の山後地区に居住する遊牧民集団を、軍事力として重視・重用していたというのである。こうした遊牧民集団の存在は、契丹側から燕雲十六州の獲得意義を論じる際には、これまでほとんど考慮されてこなかった。 

 そこで本発表では、(1)燕雲十六州の遊牧民集団は、契丹からどのように認識され、契丹統治下に入った後はどのように処遇されたのか。(2)五代政権の後、中原には北宋が勃興し、燕雲十六州の奪還を掲げて契丹と対立する。遼宋間において、燕雲十六州はどのような意義を見出され、争奪の対象とされたのか。以上、二つの疑問について検討し、契丹・北宋両者における燕雲十六州の位置づけを明らかにする。さらに、それを踏まえて遼宋対立の展開を捉えなおし、契丹の燕雲十六州獲得が十世紀末の情勢にどのように作用したかを考察する。これらを通じて、従来論じられてきた契丹の燕雲十六州獲得の意義に新たな視点を提示したい。


 

 

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