遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第19回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

遠藤総史〔大阪大学〕
「宋代の朝貢と翻訳──宋代朝貢の特徴とその地域史的意義──」

 宋代の朝貢は、従来ほとんど注目されていないテーマである。「東部ユーラシア」の10~13世紀は、内陸アジア勢力の台頭によって中国王朝が相対的に弱体化した時代であった。そのため従来の研究は、「澶淵の盟」に代表されるような新しい形式の国際関係に関心が集まり、冊封・朝貢のような中国中心の国際秩序は機能しなかったと理解されてきた。
 しかし、現代中国の「大国化」を背景にした2010年前後からの中国における冊封・朝貢の「再評価」の動きに伴って、宋代史においても黄純艶が宋代の冊封・朝貢の網羅的な研究を発表している。一方2015年以降、中国での再評価の動きを念頭に、日本の東アジア近代史において冊封・朝貢の捉え直しが始められている。そこでは、「システム・秩序」としての冊封・朝貢は、近代との相対の中に見出された「創られた伝統」だったという議論が提起されており、冊封・朝貢を体系的な「システム・秩序」として見ることで、交渉などの「実態の場」で繰り広げる駆け引きが不可視化され、冊封・朝貢が持つ本来の歴史的意義が見落とされていると指摘されている。
 そこで本発表では、日本の東アジア近代史における冊封・朝貢研究の動向を参考に、改めて宋代朝貢の実態像とその地域史的意義を再検討しようと考える。具体的には、宋朝と東南アジアを含む「南の海域世界」との関係を中心に、朝貢の際に提出される上表文の「翻訳」という行為に注目する。内容としては、まず上表文が翻訳される過程と翻訳者の属性を整理する。次に、10~13世紀における南の海域世界の歴史的条件の下で、そのような翻訳行為や翻訳者達の存在が持った意味を検討する。そして一連の考察を通して、宋代朝貢の実体は媒介者によって作り出される部分が大きく、結果として宋代の朝貢には、国家のような政治主体だけでなく、様々なレベルの経済主体がアクセス可能であったことを指摘する。


 

 

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