遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第21回 遼金西夏史研究会大会 講演要旨

「前近代中央ユーラシア東部におけるトルコ・モンゴル族のキリスト教改宗」

 森安孝夫

 いわゆる景教,すなわち従来はネストリウス派と言われ,最近では東方シリア教会と言われるアジアのキリスト教の歴史学・考古学的研究は,日本ではかつての佐伯好郎や江上波夫以来,下火になってしまった。私は大学院生時代に護雅夫教授の指示により「景教」の概説論文(前嶋信次ほか共編『オリエント史講座3渦巻く諸宗教』学生社, 1982, pp. 264–275)を書いて以来,中央アジア・キリスト教史に興味を持ち続けてきたが,シリア語の知識が必須なので深く研究することを諦めてきた。ところが近年,欧米では景教研究がやや異常なほどの高まりを見せている。今回の私の講演はそれに刺激を受けており,先ず中央ユーラシア東部のトルコ・モンゴル族,具体的にはカルルクとケレイト(=阻卜=九族韃靼)に関わる二つのキリスト教改宗伝説を取り上げ,それに対応する史実に迫りたい。

 さらに,2019年末に出版された英文の拙著『古ウイグル手紙文書集成』Corpus of the Old Uighur Letters from the Eastern Silk Road, (Berliner Turfantexte 46) に含まれる一通の手紙,すなわちキリスト教聖職者から西ウイグル王族に宛てて出された手紙の実物を取り上げる。歴史的・地理的状況的に鑑みれば,ケレイト・オングート・ナイマンという蒙元時代にネストル教徒として有名になった諸集団にキリスト教が伝わったのは,10〜11世紀の西ウイグル王国からであると思われるが,その蓋然性を検証したい。

 

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