遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第22回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

速水 大(東洋文庫奨励研究員)

唐開元20年代初頭の幽州地域における軍事行動と軍功問題

―『文苑英華』巻六四七所収樊衡「為幽州長史薛楚玉破契丹露布」の分析を中心に―

 「為幽州長史薛楚玉破契丹露布」は、開元年21年の唐と契丹の戦闘に関する唐側の戦勝報告である。本露布は当時の北東アジアの国際情勢を検討する際に注目された。そこに当時唐と対立する勢力として突厥・契丹・渤海が連合していたことが記され、唐と渤海との紛争の理解に関わるためである。

 一方で、この露布には史料としての大きな問題が残る。開元21年の唐と契丹の戦争は、史書には唐側の副将が敗死するほどの大敗北と記録されている。そして、戦後、唐側の主将の薛楚玉は更迭された。史書の大敗北と露布の勝利報告が矛盾するのである。唐軍の全体的な大敗北のなかで挽回を図った戦闘のみに焦点を当てた勝利報告であったと想定できるが、なぜ、このような戦勝報告が作成されたのかを考える必要があるだろう。さらに、露布の内容を詳細に検討すると、当時の唐の軍事組織における異民族の活動の具体的な様相が明らかとなる。また、ほかの露布との比較や玄宗の勅書の記述と考え合わせると、従来見落とされてきたが、当時の朝廷から度々改善が求められた唐辺境軍の軍功報告の問題が浮かび上がる。

 本報告では、樊衡「為幽州長史薛楚玉破契丹露布」の検討を通して当時の唐の辺境軍に関わる問題を検討する。


 

 

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