遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第23回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

「『遼史』版本考──明洪武刊本を中心に」

大竹昌巳(京都大学)

 『遼史』116巻は元末の至正4年(1344)に成り、翌年に刊刻されたが、この至正初刻本は今に伝わらない。現在最もよく利用される中華書局点校本・修訂本が底本とする商務印書館の百衲本二十四史『遼史』は「元至正刊本」の景印を称するが、この刊本は実際には、すでに明らかにされているように明初の洪武年間後期(14世紀末)に福建で刊刻された覆刻本である。

 この洪武覆刻本は現存最古の『遼史』版本であり、清内閣大庫旧蔵の6部の残本(うち4本が北京の、2本が台湾の国家図書館に現蔵される)と戦後北京図書館に寄贈された3部の完本のほか、中国各地および日本に所蔵される数本が知られている。これら諸本はいずれも基本的に同一の版木から印刷された同版本ではあるが、補刻葉や版面の部分的欠損・改刻の有無による字句の異同があり、それらを比較照合することで諸版本の新旧を知ることができる。本報告では、それら洪武刊諸本の現在に至る継承過程を収蔵印や書目類への著録その他によって整理したのち、諸本間の異同に基づきそれら諸版本が補刻葉を含まない初修本とそれを含む補修本にまず二分でき、初修本はさらに早印本と後印本に区分可能で、それぞれをさらにまた二分できることを明らかにする。併せて、構成順序に混乱の見られる「遼史目録」の原初形態の復元も行なう。また、百衲本の所拠本が具体的にどの版本かをテキスト自体の特徴と当時の記録に基づき特定し、それが補修本である上に、百衲本編集時に数々の手が加えられているため、決して良質なテキストとは言えないことを指摘する。最後に、洪武刊諸本と永楽大典本・明内府旧蔵抄本・明南監本との比較を行なってそれらの先後関係や価値について検討し、点校本・修訂本の版本認識・校勘態度に関して附言する。


 

 

inserted by FC2 system

inserted by FC2 system