遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

日本所蔵コレクション資料からみる契丹の金工技術

―器物形態・製作技術・金属成分からの検討―

 

鈴木舞(山口大学)、飯塚義之(中央研究院)

 

 本論では、契丹(遼)で用いられた帯金具・馬具・面具といった金工品を研究対象として、形態、製作技術、金属成分という3つの観点から、当該期の金工技術について報告する。

 契丹の金工品は、その多くが銅製品であるにも関わらず、これまでの研究は金銀器に偏っている。また製作技術と金工品の物性に関わる金属成分(化学組成)についても、わずかな分析例があるだけで、目視による曖昧な観察しかなされていない。契丹の金工品を網羅的に研究するのであれば、銅製品も含めた調査が必要である。

 本研究では、日本国内に収蔵されている契丹金工品コレクション約1千点を研究資料とした。調査資料に対し、1点ごとに目視及び実体顕微鏡観察を行い、その形態と製作技術の観察を行った。すなわち鋳金・鍛金・彫金を始めとする、本体及び文様の製作技法の判別を行った。その上で、可搬型蛍光X線分析装置を用いた非破壊化学分析を全資料に対して行い、銅、銅錫合金(青銅)、銅銀合金、銅亜鉛合金、銀、金といった金属および合金の種類や、めっきの有無の確認を行った。これら一連の分析結果から、契丹では、金属素材の性質を理解した上で、用途に見合う金属や合金を選択、使用する製作技術を確立していたことが示唆された。

 本研究で用いた資料は、国内で長年収蔵されながらも、見過ごされてきた資料群である。しかしながら、こうした契丹の金工品の観察、分析を集成していくことで、時空間上空白とも言えた契丹の金工品の評価することができる。今後、周辺の地域や時代比較などの検討を重ねることで、東部ユーラシアにおける金工技術史の解明へ繋がることが期待できる。


 

 

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