遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第14回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

松下 道信 (皇学館大学)
    円明老人『上乗修真三要』について

 禅宗には牧牛図と呼ばれる一群の作品がある。これは一般に牛を主題とした何組みかの図と頌からなり、悟りにいたる修行の過程を象徴的に説き明かしたものである。代表的なものとしては廓庵「十牛図」や普明「牧牛図」がある他、清居晧昇「牧牛図頌」や石庭厳浄「四牛図」など幾種類かの存在が知られ、唐末から宋代にかけて禅宗において牧牛図の制作が流行していたことが知られる。

 ところで全真道士の円明老人『上乗修真三要』巻上には、牛を馬に置き換えた「牧馬図」が見られる。この存在についてはすでに蒋天石やカトリーヌ・デスプらによって指摘され、また円明老人は馬丹陽の再伝の弟子である高道寛であろうと推定されている。ただし注意されるのは、『上乗修真三要』巻下にはこの「牧馬図」と並んで「内丹図」が附されていることである。この「内丹図」はやはり図や詞などを用いて修養を段階的に説明するもので、「牧馬図」とおなじく十二組みからなる。すなわち「内丹図」の制作にあたっては「牧馬図」との関係が意識されていると考えられる。しかし両者の関係についてはこれまでほとんど考察されてきていない。

 そこで、本報告では『上乗修真三要』の「牧馬図」と「内丹図」を取り上げ、それらがどのように関係しているのか全面的に検討することにしたい。この他、儒教においても程頤の門人の醮定に「牧牛図頌」が残ることが確認され、禅宗の牧牛図が当時の新思潮である道学や全真教に少なからぬ影響を与えていたことが窺われる。こうしたことから本報告では、『上乗修真三要』を中心に、宋・金・元における道教と儒教への牧牛図の影響について報告することにしたい。


 
 
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