遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第15回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

廣瀬 憲雄 (愛知大学)
  六〜十三世紀における致書文書の再検討
     ——致書・奉書・献書・裁書・上書——

 致書文書とは、冒頭を「某致書某」とする書状の一種であり、対等関係を示す外交文書としても使用されたことが、中村裕一氏の研究により指摘されている(中村裕一「慰労制書と『致書』文書」〔同『唐代制勅研究』汲古書院、一九九一〕)。また、唐の滅亡後においては、「某奉書某」や「某上書某」などの、致書文書と類似する形式の外交文書も存在していたことが、中西朝美氏の研究により明らかにされている(中西朝美「五代北宋における国書の形式について 「致書」文書の使用状況を中心に」〔『九州大学東洋史論集』三三、二〇〇五〕)。

 しかし、この「奉書」や「上書」という形式は、国内の臣下から皇帝に提出される場合もあるように、君臣関係を含めた明確な上下関係を表明しえるものである(拙稿「倭国・日本史と東部ユーラシア 六〜十三世紀における政治的連関再考」〔『歴史学研究』八七二、二〇一〇〕)。そのため、致書文書に関しては、これまでに存在が指摘された様々な類似の形式も含めた上で、全面的な再検討を進めていく必要がある。

 本報告では、六〜十三世紀(隋〜南宋)における致書文書と、致書文書に類似する文書形式のうち、使用例が多い「致書」・「奉書」・「献書」・「裁書」・「上書」という五種類の形式に注目して、外交文書以外の用例も含めて、各々の形式が示す上下関係の程度や、その時期的な変遷を明らかにする。その上で、これらの形式が外交文書として使用されている国際関係、特に五代諸王朝前後蜀関係、金北宋関係に注目して、名分関係の変化を含む具体的な外交過程を詳細に跡付けていきたい。


 
 
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