遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第15回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

荒川 慎太郎 (東京外国語大学)
  西夏文『金剛経纂』の成立過程について

 『金剛般若波羅蜜多経典』(以下『金剛経』)は東アジア・中央アジアで広く流通した経典であり、西夏においても羅什漢訳が西夏語訳され、多種の版本が刊行された。現在その多くは東洋文献研究所(ロシア、サンクト・ペテルブルグ)に所蔵される。実際には整理が十全ではなく、従来の目録などで『金剛経』とされているものの中には、『金剛経』からの派生経典も含まれる。その一つが漢文疑経『金剛経纂』の西夏語訳である。

 報告者はかつて荒川(2002)において、従来の整理を再検討し、『金剛経』とされていたものの中から『金剛経纂』の抽出・比定を行った。西夏語訳『金剛経纂』は写本1点、刊本1種類が確認できた。また、西夏語訳『金剛経纂』を全訳するとともにその内容に関して論じた。この中で漢文版との内容的な相違についても触れた。この時点では『敦煌宝蔵』(黄永武主編 1982 etc.)所載の漢文資料しか扱えなかったが、『蔵外仏教文献』(第八輯)(方広錩主編 2003)などで紹介された新資料を活用し、更に精度の高い比較が可能になった。これらの研究の進展は荒川(2002)の増補修正版である荒川(2014)に反映させてある。

 本報告では、各種漢文版と西夏語訳『金剛経纂』の比較検討、西夏語訳『金剛経』と『金剛経纂』の訳出の関係、などを通じて、西夏文『金剛経纂』の成立過程について論じる。西夏語訳『金剛経纂』は、西夏語訳『金剛経』と訳出が微妙に異なる、興味深い資料でもある。その訳出の言語的特徴なども紹介する。


 
 
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