遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第15回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

赤羽目 匡由 (首都大学東京)
『類聚国史』所載の所謂「渤海沿革記事」の史料的性格について

 『類聚国史』とは、菅原道真が六国史の記事を内容により分類・編集した書物である。その巻193・殊俗部・渤海上・延暦15(796)年4月戊子(27日)条には、渤海の建国事情や地方社会の様子を伝える所謂「渤海沿革記事」がみえ、渤海の地方支配を考える上で重視されてきた。その史料的性格については、在唐僧永忠の書状を引用したもので、8世紀末の渤海における見聞記と長らくみなされてきた。しかし『類聚国史』の記事は元々六国史の記事なので、「渤海沿革記事」は延暦11(792)年から天長10(833)年を記述対象年次とし、承和7(840)年に完成した『日本後紀』の文章である。現在では「渤海沿革記事」は繋年からみて渤海初出箇所における、『日本後紀』編者による渤海説明記事とする見解が有力である。とはいえ依然として永忠の書状の内容を反映するとみる向き等もあり、「渤海沿革記事」の史料的性格をどう理解するかについては、未だ意見の一致を見ていない。また、本記事を『日本後紀』編者による渤海説明記事とみるばあいにも、その素材となった情報源が何であったのかについて、議論の余地があるように思われる。

 そこで本報告では、まずは近年の「渤海沿革記事」を検討対象とした研究の研究状況を振り返り、その傾向と到達点とを確認する。その上で、その記事がいかなる情報にもとづくのかに焦点を合わせ若干の私見を述べることを通じて、当時の渤海の国内事情についても言及できればと思う。


 
 
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