遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第18回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

⼩野 裕⼦ (岡⼭理科大学附属中学校)

西夏文文献『亥年新法』巻四の予備的考察

——条文から読み取れる西夏末期の国内外情勢——

 正史が編纂されることがなかった西夏の歴史を紐解く上で重要な要素となっているのが、コズロフが黒水城址(現中国内蒙古自治区エチナ旗)で発掘し、現在はロシア連邦サンクト・ペテルブルグ市にあるロシア科学アカデミー東方文献研究所で保管されている西夏文文献である。これらの中に、『亥年新法』或いは『新法』と題される一連の法典がある。近年の研究の進展により、行・草書で書かれた西夏文文献も解読が進み、その内容の検討が可能になってきた。先行研究では、『亥年新法』は西夏の末期に編纂され、その内容は西夏第5代皇帝仁宗の天盛年間(1149〜1169年)に成立した『天盛旧改新定禁令』を補足していることが指摘されている。また『新法』と題される文献は、報告者の実見調査により、『亥年新法』という題名を省略したものであることも分かっている。本報告では、この『亥年新法』の中で、軍事に関わる条文が記載されていると考えられる巻4に着目し、どのような内容が補足されているかを検討する。西夏の軍事体制を明らかにしていくことの重要性は夙に指摘してきたことである。既に先行研究には、罪を得て黒水に異動させられていた西夏皇帝直属の「前内侍」を呼び戻し首都の防衛力を高める動きがあったことが報告されている。本報告では、その他に地方の司(西夏政府が設置した公的機関)にはどのような指令が出ていたのか、又条文の中には友好関係を結んでいると考えられる国名も記されていることから、モンゴル帝国侵攻期の西夏が国内外の情勢に対してどのような意図を持ってどのような動きを見せていたのか、条文内容から考察したい。


 
 
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