遼金西夏史研究会 - Society for Liao, Jin and Xi-xia Studies

 

第18回 遼金西夏史研究会大会 報告要旨

⽇⽐野 晋也 (関⻄大学大学院東アジア⽂化研究科)

劉処玄『無為清浄長生真人至真語録』について

 全真教は金末に王重陽が開いた一派であり、現在も正一教と並ぶ勢力を誇る。彼らの修行は禅宗に影響を受けた内丹術の流れを汲むものであり、経典よりむしろ己の内部に存在する心を拠り所とするものであったことは知られている。

 そのような中で、王重陽が信者らに『道徳経河上公注』の読経を勧めていたことは注目すべきものである。『道徳経河上公注』は引き続き教団の中で受容されていたようであり、王重陽亡き後の教団を率いた馬丹陽にも言及が見られ、丘処機亡き後の教団を率いた尹志平も語録の中で弟子たちに『道徳経河上公注』を勧めている。そのような状況を踏まえるならば、王重陽の直弟子である七真の中で唯一『道徳経』の注釈を著した劉処玄の思想は改めて考えなければならない課題であるといえる。

 劉処玄の伝記資料によれば、彼は『黄帝内経』・『黄帝陰符経』・『道徳経』の注釈を著したとされるが、『道徳経』の注釈は散逸したようであり、現在内容を知ることができない。しかし、彼と弟子との問答を記録した『無為清浄長生真人至真語録』は『道徳経』の文章を引用しながら説法を行っている。そのため劉処玄の注釈を伝えるものであると考えて良い。問答の形式としては弟子が「善」や「清」といった特定の概念を尋ね、劉処玄が回答し、『道徳経』・『陰符経』の言葉で締めくくるという形式のものである。また、語録であるためか取り上げる『道徳経』の順番は一定しておらず、中には一度も出てこない章もある。問答自体は比較的短いものであるが、その中には全真教の初歩的な戒律や概念についての言及もあり、無視できない。

 本報告では、彼の語録の分析を通して、王重陽ら以降の全真教教理の展開について、どのような概念が受け継がれ、展開されていったのかについて考察を試みたい。


 
 
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